わたりがににとって最も重要なものは、その活き具合。
いわゆる鮮度です。
いくら捌きたてをご提供するという極意はあっても、弱っているカニを使ってしまっては話になりません。
松屋では、休日も含めて、朝・昼・夜の1日3回、常に100匹ほどが入った水槽の中のかにの状況を1匹、1匹確認しながら、別の生簀に移し替える作業を行います。
実際にカニに触れることで、甲羅の硬さ、足の動き、カニの温度で、鮮度をチェックし選別していくという地道な作業ですが、絶対に惜しんではいけないと思っています。
わたりがには、「捌きたて×鮮度」のバランスが合ってこそ美味しい蟹なのです。
良いわたりがにとは、身の詰まりがよく、腹部が盛り上がっている蟹のこと。
持ってみて重厚感があったりと見分け方は色々ありますが実際のところは甲羅を開けてみないとわかりません。
40年近くわたりがにと向き合ってはいますがこれが分かれば苦労しません。
わたりがに料理の難しさに仕入れの問題があります。
天候や水温などの環境に大変左右されることもあり、大阪湾の蟹の収穫量も毎年減少しています。
割烹 松屋は、現在泉佐野漁港と尾崎漁港から仕入れさせていただいていますが、実際のところ、20年以上前からわたりがには減少しています。
素材一筋を語る当店にとってこの問題はやはり深刻ではありますが、「大阪湾のわたりがに」を大切にし、泉州の食文化としてわたりがにを伝えていきたいと思っています。
また、わたりがには管理も非常に大変で、1日3回、一匹ずつ品質の確認をしていますが、何もなくとも毎日水槽にいるかにの2割は死んでしまいます。
台風が直撃した年は200匹以上の蟹が死んでしまいました。
仕入れのバランスと水槽の状況には非常に気を使います。
浅場にいる蟹は水臭く、身が美味しくありません。
では大阪湾のわたりがに「はなぜこんなにも美味しいのか」を少しご紹介いたします。
泥質の内湾であり、わたりがにの餌となるゴカイなどが多く生息する大阪湾。その砂地の遠浅なところに大きく深いくぼみの底を作り、わたりがには住んでいます。これが大阪湾の美味しさと大きさの秘密なのです。
わたりがには、タラバガニやズワイガニのように身は多くはありませんが、絹のようになめらかな身と濃厚な味わいが特徴です。
わたりがに専門店として、わたりがにに携わる者として、割烹 松屋はこれからもわたりがにの魅力をお伝えしていきたいと思っています。